しぜん・しごと・暮らしは地つづき 第9回「仲間と共にものをつくる喜び」 | 婦人之友社 さあ、生活を発見しよう

しぜん・しごと・暮らしは地つづき 第9回「仲間と共にものをつくる喜び」

 
 岐阜県にある白山国立公園の南側に位置し、縄文の時代から続くという集落、石徹白(いとしろ)。
 この地の自然と土地が培ってきた人々の暮らしを受け継ぎ、現在の私たちに「服づくり」という形で、古くて新しい文化を伝える「石徹白洋品店」の活動や日々の営みを、店主の平野馨生里さんがつづります。
 

 

石徹白洋品店の しぜん・しごと・暮らしは地つづき [第9回]

仲間と共にものをつくる喜び

平野馨生里(石徹白洋品店・店主)

 

 

 石徹白は白山南麓の山奥にある、人口200人の小さな集落です。正直なところ、ここは常にたくさんの人が行き来する場所ではありません。石徹白洋品店という会社自体は、石徹白に住んでいるメンバーが4人、地域外からリモートワークを中心に、月に数回通ってくれるメンバーが3人ほどの小さな事業体です。

 

石徹白洋品店の集合写真。

 

 その仲間とともに日々、企画、生産管理、染め、販売などを行っています。小さいからこそ、一人ひとりの存在が大きく、それぞれの仕事を責任もってこなしています。

 

 この大切な仲間たちのほかに、石徹白洋品店を支えてくれる人たちが常にいてくれます。

 

販売スタッフの松尾さん。

 

バックヤードを支える斉藤さん。

 

 

欠かせないインターン生

 

 5月から10月の藍染が忙しい時期、毎年募集するのがインターン生です。藍染、畑の手入れ、染めた服の仕上げ、アイロン、検品など、さまざまな仕事があります。今年は長期のインターン生が2名、1カ月程度のインターン生が各月に1〜2名ずつ来ています。

 インターン生の受け入れは、20175月、藍染を始めるタイミングでスタートしました。藍の建て方、染め方などを皆藤俊雄さんに教えてもらうことになった際、「藍について学べる貴重な機会を誰かとシェアしたい」という気持ちが膨らみました。そこで、藍を学びたい人を募って一緒に教えてもらったらどうだろう!と思い立ったのです。

 

 インターン生の学びの中心は藍染と草木染めです。それに加えて、服作りや服屋の経営を学びたいという方も参加することがあります。あるいは、石徹白暮らしを体験したい方や畑が好きな方、子守を手伝ってあげるよ、という方もいました。年齢は大学生から60代まで、遠いところではカナダ在住の方が来てくれたことも。

 藍染をしたことがない人がほとんどで、初めて藍甕(あいがめ)に手を入れた時は、みな感動します。私も20175月に初めて藍染をして同じ気持ちを抱いたので、毎回彼らに共感しています。

 

インターン生は染めや日々の藍甕の管理をします。

 

 そして、インターン生に藍染のことを伝えることで、改めて、藍の難しさと素晴らしさを再確認しています。インターン生の存在に学ぶことは多く、この山奥の石徹白まで来て、滞在してくださることに感謝しかありません。

 2017年から今に至るまで、延べ40人ほどのインターン生を受け入れてきました。最低3週間の滞在が基本的なので、この期間で何を学びたいか、何を達成したいかなどを聞き取って、できる限りのことをお伝えし、相談に乗っています。

 

 インターンを経て藍染や服づくりで独立し、自分で仕事を作っている人もいますし、全く別の分野で個人事業を始める人もいます。彼らの姿に私は励まされ、私も頑張ろうと思えるのです。インターン生、インターン卒業生はもはや石徹白洋品店にとって欠かせない存在となっています。

 

 

たつけ認定講師

 

 20233月からスタートしたのが、たつけ講師認定講座です。たつけというズボンの作り方は特殊で、服作りをしたことがある人なら誰もが「すごい!」と感激します。

 石徹白洋品店を始めた2012年ごろから、石徹白でたつけ作りのワークショップを開催してきました。回を重ねるごとに、たつけを作った人から「私も作り方を広めたい」という声が上がるようになってきました。

 石徹白小枝子さんに作り方を教えてもらって以来、私も同じことを思い、ワークショップを行ってきました。私の積み上げてきた経験を共有して、石徹白のたつけを共に広める仲間を作っていこう、と考えたのです。

 

 日本全国「たつけ」のようなズボンは残っています。「たっつけばかま」や「またひき」「モンペ」などです。けれど、石徹白のたつけとまったく同じ形、同じ裁断図のものはまだ見たことがありません。そして、私は作り方を学ぶと同時に小枝子さんやりさこさんから、たつけを使って働いたときの思い出話、この地域での暮らしの話をたくさん聞いていて、石徹白での生活とたつけとは切っても切れないものだと考えています。

 この小さな集落で、口承されてきたたつけの作り方、そしてたつけが育まれたこの場所のこと、両方をきちんと伝えていけるようなプログラム内容で、認定講座を実施しています。

 

たつけ認定講座の様子。

 

 年に2回、認定講座を開催し、現在は12名の認定講師が誕生しています。講師は東京、神奈川、長野、岐阜、奈良、兵庫など、それぞれの地域で活動を始めていて、石徹白のこと、石徹白のたつけのことを伝えて下さっているのがとても心強いです。認定講師は「仲間」であり、頼れるメンバーとして、石徹白洋品店を支えてくれています。

 今年秋には初めて「認定講師ギャザリング」を開催し、彼らと共に活動の幅を広げていきたいと、ワクワクしているところです。

 

 

東京チームの存在

 

 私自身、学生時代から社会人1年目にかけて関東方面に住んでいたため東京周辺には思い入れがあり、東京で年間3回ほど展示会を行っています。ただ、私が展示会期間中、ずっと東京に滞在するのは難しく、2年ほど前に「東京チーム」が結成されました。

 現在、関わっているのは6名です。ライター、広報専門家、主婦、団体職員などそれぞれ他の仕事や役割もある中で、東京での展示会の時にはスタッフとして店頭に立っています。

 

 

東京チームの仲間たち。

 

 彼らは一度は石徹白に足を運んで、石徹白での時間を共に過ごした仲間。石徹白の空気を吸って感じてもらう。そこから始まり、石徹白洋品店の背景やコンセプト、服のことをより深く理解してくれています。

 

 ただの販売スタッフではなく、私たちの服づくりを客観的に見て意見し、アドバイスをくれます。石徹白で主観的にものづくりをしているとわからなくなってしまう感覚を教えてくれます。それぞれの分野でプロフェッショナルとして動いているからこその、機知に富んだ助言がとてもありがたく、ものづくりの現場にはない視座を与えられるのです。

 東京チームができてから、人から人への広がりを強く感じるとともに、こうした第三者の声に耳を傾けることの大切さを再認識しています。

 

 

お客様も仲間

 

 私たちにとってお客様も仲間のような存在です。特に石徹白本店に一度でも足を運んでくださった方は、なんだかファミリーのような感覚です。峠道を越えて来てくださり、元馬小屋ギャラリー、店舗、藍染小屋、藍畑など、私たちの暮らしと仕事のスペースをご覧いただき、過ごしていただくことは、友人をわが家に迎え入れるような気分なのです。

 時々現れるわが子たちや、草を食むヤギ、のんびり過ごす黒猫と遊ぶ姿に癒されることも。

 

初夏の石徹白洋品店。

 

 この頃は、「これからも長く着たいので」と染め直しや修繕の依頼も増えています。「子育ての頃に着ていたので、思い出深いです」「結婚式のときに羽織りました」など、身につけたシチュエーションもお知らせくださり、勝手に母親になったような気持ちでお直しをしています。

 お客様との交流の中で新しい服が生まれることも増えてきて、お客様、というより本当に「仲間」でいてくださることに感謝の気持ちでいっぱいです。

 

 

ひとりではものはつくれない

 

 私ひとりで服のデザインをし、縫って、藍染をして、販売するのは、不可能なことではありません。けれども私は、ひとりでものをつくるのは面白くないなぁ、と思ってしまいます。

 たくさんの人に関わってもらい、私自身が影響を受け、同時に仲間にも何か影響を与えて、それぞれのエッセンスが溶け合いながらものを生み出していくことに惹かれます。

 ひとりで生み出すものと、仲間で生み出すものと、形も、そして意味も違ってくると思うのです。

 

 私が学生時代、カンボジアに通っていた際に聞いた、森本喜久男さんの「身近な人とものをつくることが、幸せにつながるんだよ」という言葉がいつも頭にあります。

 “身近な人”とは、この地域に住むメンバーや地域の人々、インターン生でもあり、あるいは、志を共にする認定講師の仲間でもあり、または、遠くに住んでいるけど私たちのことを理解してくれている東京メンバー、さらにはお客様も、そうなのでしょう。

 

仲間と共にものを作る。

 

 クリエイティブでワクワクするものづくりは、都会だけではなく、こうした多様な仲間とさまざまな繋がりを持つことで、山間部でも、いや、自然資源が豊かな山間部だからこそできるのかもしれません。

 

 顔の見える関係があり、自分のできることをそれぞれが成していくなかで生み出されてる “もの・こと”。その“もの・こと”との出会いや、そのプロセスの共有が究極の喜びであり、幸せの瞬間なのでは、と日々感じています。

 

 


[編集部から]

石徹白洋品店の洋服が、いろいろな人のつながりや関わりの中で生まれているものであることが分かります。

お客さんも含めて、想いに共感し、同じ方向を向いて歩む人たちと一緒にものをつくり、使う――そんな幸せな循環が、どんどん広がっていくことを願います。

 

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