暮らしの達人セレクション「安部智穂さん・モノと暮らしのストーリー」03
[モノと暮らしのストーリー・安部智穂さん 03]
骨董市をめぐり、器や古道具を見るのが大好きな安部智穂さん。
暮らしの中で存分に使われて生かされるモノと、愛してやまないタイマグラでの暮らし、50代半ばを迎え「ここ数年は『選ぶ』ことを大事にしている」という心境の変化について、語ってくださいました。
(文・鈴木裕子/写真・筆者)
もともと木や竹など土に還る素材が好きだという安部さん。「とくに竹のかごやざるは、タイマグラで暮らすようになってから、より一層好きになりました」。
岩手はもともと竹細工が盛んな土地。竹細工専門の職人さんというより、農家さんなどが冬の農閑期に竹でかごやざるを作り、春になると仲買人がそれを買い付けにやってくるというスタイルが長く続いていました。今では竹細工を生業とされている作家さんもおられて、その作品は全国で大人気です。
岩手県一戸町の鳥越地区も、古くから竹細工の産地。安部さんがその地を初めて訪ねたのは30年ほど前のこと。偶然知り合った竹細工の仲買人が、安部さん夫婦が無類のかご好きと知って案内してくれたのでした。
鳥越の竹細工は、細くてしなやかな”すず竹”を使ってていねいに編まれているのが特徴です。「いちばんの魅力は、しなやかさ。直径1cmにもみたない細いすず竹を、さらに細く割って、剥いで、薄いヒゴにして編むので弾力があるんです。かごもざるも目が詰まって繊細で美しい表情をしているのですが、とても丈夫。私も夫も、日常の暮らしの中でどんどん使っています」。
今回ご紹介するのは、「鳥越竹細工 産地を守る会」が扱う、昔ながらの丸ざるとおしぼりざるです。丸ざるは万能選手。「洗った野菜の水切りはもちろん、お蕎麦を盛れば、水切りも兼ねるので、お蕎麦が水っぽくなることもありません。干し野菜を作る時には欠かせませんし、果物やお菓子を盛っても素敵です。機能的であると同時に、何を盛ってもサマになるのが嬉しいお薦めの品です」。
おしぼりざるは、名前のとおり本来はおしぼりをのせるざるです。「私は、揚げ物の銘々皿としてもよく使っています。湿気がこもらないから、春巻きなどもパリッと感が保たれて、おいしくいただけるんです」。
美しいすず竹細工ですが、長く使い続ければ、色が変わり、汚れもつきます。うっかりカビさせてしまったり、縁巻きがほつれることだってあるかもしれません。「天然素材なのだから、それは当然。正しく手入れをしながらどんどん使い、簡単なほつれは修理をし、そしていよいよとなったら買い換える。それによって貴重な技術の継承を支える一助になればうれしいな、と思うんです」。
今回ご紹介した作品は、F-TOMO SHOP でもお求めいただけます。
(2024.10.31)
*次回は、安部さんが愛用する「陶工房 しゅうと」の器の魅力について、お話いただきます。
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安部智穂 あべちほ
森の暮らし案内人。1994年に桶職人の夫と岩手県早池峰山麓のタイマグラ集落に移住。山菜や木の実を採り、野菜を育てて保存食や発酵食にするほか、クラフト市を主宰するほど手づくりの道具が好き。たくさんの作家や職人とつながりを持ちつつ、自分でも草木染めやカゴづくりを楽しんでいる。著書に『森の恵みレシピ 春・夏・秋・冬』、『カゴと器と古道具』(共に婦人之友社刊)がある。