身体も心も楽になった、”引き算”の生活。

[モノと暮らしのストーリー・井田典子さん 01]

 

整理収納アドバイザーとして活躍されている井田さん。テレビや雑誌などで活躍する傍ら、個人のお宅への「片づけ訪問」も精力的にされています。ご自身の暮らしのステージを振り返ってのお話や、日々の暮らしのなかで大切にされていることを伺いました。

(文・鈴木 裕子/写真・有賀傑、元家健吾

 


 

身体も心も楽になった、”引き算”の生活。

井田典子さん(整理収納アドバイザー)

 

 

『婦人之友』誌上でおなじみ、整理収納アドバイザーの井田典子さん。最近、片づけ訪問に伺うなかで感じることがあるといいます。

 

「歳を重ねれば重ねるほど、みなさん『片づけなくちゃ、終活しなくちゃ』とおっしゃるんですが、私は逆にある時期から引き算の生活をしてきたので、いま、家の中にはよけいなものがほとんどなく、片づける必要がなくなってきました(笑)。片づけにエネルギーや時間を割かなくてもよいので、体力的にも気持ち的にも、以前よりずいぶん楽になりました」

 

井田さんにとって、暮らし方=空間のクリエイト。夫と3人の子ども、家族5人で暮らしている間は「少しでも広く暮らしたい」と思うことが多かったといいます。

 

「育ち盛りの子どもたちと、家族5人で暮らした45㎡の公団3DK」
間取り図:やまだやすこ

 

「だから子育ての時期は、インテリアは二の次でした。どうしたら、子どもたちがこの限られた空間を自由に使えるか、どうすれば平面を広げられるか。6年前にいまの住まいに移るまでの35年間は、ずっと狭さとの戦いでした。新婚時代は2Kの借家。そこから家族が増えるごとに3DK、4L DKと住み替えてきましたが、それでも家族5人となると、いっぱいいっぱい。そうした暮らしのなかで鍛えられ、『床にものを置かない』『飾るのは棚の中だけ』といった、私なりの整理のセオリーが生まれたんです」

 

それがいまにつながり、仕事にも結びついたわけですが、子育て中は片づけや家事をきちんとこなさなくてはという思いから、常に「ToDo」(やるべきこと)ばかりを考えている毎日。1階リビングを教室としていた頃は、子どもたちの私物は必ず2階の子ども部屋に持って上がるよう小言を言ってばかりでした。

 

「そんな自分が嫌で、落ち込んで。この状況を何とかしたいと思いつつも、何も変えられなかったのは、心に余裕がなかったから。もっと言うと、自分を愛せなかったからです。当時はそのことに気づいていませんでした。教会に通いはじめ、洗礼を受けて『自分を愛するように、隣人を愛しなさい』という言葉に出会ったとき、『あ、私は自分を愛してない』って。

 

あれもやらなくちゃ、これもきちんとしなくちゃ……と時間に追われる生活で、自分のことを顧みる時間がない。当然、心もとげとげしくなります。もっとくつろげばよかった、もっともっと子どもと楽しめばよかったと思えるようになったのは、子育てが終わってからです」

 

寝室の書斎スペース

 

5軒目のいまの家に越すまでに、子どもたちが次々に独立。そのたびに荷物を整理し、ものを厳選したため、「もう片づける必要がない」のだそうです。

 

「ようやくこの家で、余計なものがない床の広がりを楽しめるようになりました。それが、私にとってのいちばんのごほうびです。自分のことも愛せるようになった気がします。

 

(2025.02.26)

 

次回はインタビューと併せて、「鍋帽子®︎と『魔法の鍋帽子®︎』のセット」についても伺います。

 

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井田典子 いだ のりこ

横浜友の会(『婦人之友』読者の集まり)会員。整理収納アドバイザー。1960年広島市生まれ。整理収納、時間の使い方などのシンプルライフを『婦人之友』誌上で紹介。各家庭の暮らしに寄り添った「片づけ訪問」、テレビや雑誌など各メディアで活躍するほか、全国各地で行う講演会も好評。著書に『片づけは整理9割、収納1割』など。


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