【f-tomoカフェ】第2回 井田典子さん | 婦人之友社 さあ、生活を発見しよう

【f-tomoカフェ】第2回 井田典子さん

モノと時間と心の整理

2018年5月11日(金) 開催

 

井田典子さんをゲストに迎え、自由学園明日館講堂で行われた第2回f-tomoカフェ。トークの1時間は、プロジェクターに映し出された実例写真を見ながら実際の片づけ方や整理のコツを聞いたり、井田さんのお宅の収納写真を見て、なぜこのように収めているかなど、来し方をふり返っての「片づけ哲学」をうかがいました。

会の後半に行われた、会場からの質疑応答のようすをお伝えします。

 

井田典子さん

相模友の会会員、住グループ。整理収納アドバイザー。これまで100軒以上の片づけを手伝うほか、物の持ち方・収め方、時間の使い方などの講演を行う。1960年生まれ。『婦人之友』に「50代からの身軽な暮らし」連載中。

 

 

軽やかに、心豊かに暮らすためには、必要充分な量で

男性(50代):

世の中は片づけブームで、いろんな方がいろんなことをおっしゃっていますが、井田さんのお話は大変説得力があるな、と感じました。それはなぜかなと考えると、今日のお話の最後にもありましたが、「日々を軽やかに、心豊かに暮らしたい。人生の折り返しを過ぎ、願うことはその一点です」ということなのかと。井田さんがどのようにしてこの境地に達したのか、お聞かせ願えれば幸いです。

井田:

ありがとうございます。私は、35年間『婦人之友』を読んで、友の会に繋がっていました。もし、1人でずっと専業主婦をしていたり、子育てをしていたら、一生懸命やったかもしれないけれども、自分1人の頭で考えたことにとどまっていたのでは……と思うのです。友の会のいろんな価値観の中で、そのことが正しいかどうかの照らし合わせをしながら、ここまでこられたことが、一番大きいと思います。家計簿記帳にしても、1人でコツコツ続けるのは大変ですから。

 

そしてやはり、友の会には羽仁もと子先生の思想が根底にあるので、著作集を読みながら導かれたということが、いちばん大きいと思います。そうした中、東日本大震災の年に、通っていた教会で洗礼を受けました。すると、すべてのことがいろいろ準備されて

いて、繋がっているんだなっていうことを実感したんですね。そして、生き方に正解はないと思いました。同時に、片づけも正解はないと思っています。

 

 

先ほど申し上げた「1アイテム5点主義」も、5枚で正しいとか、5枚でなければいけないと言っているわけではありません。私の場合は、5枚だと覚えていられるので、そうしていると。要するに、皆さんそれぞれが指針となるもの、私はそれを「暮らしのサイズ」と呼んでいますが、「暮らしのサイズ」を見つけて、不自由がないかどうか、絶えず調整していくことが大事かなと思っています。

 

そう思ったきっかけの1つに、2006年に友人宅1軒を片づけたことがあります。友人が2カ月後にオーストラリアに引っ越さなくてはならない、家を売らなくてはならない、小さい子どもが3人いるのにどうしよう……となって、私が全てを片づけました。家電製品を売ったり、本を売りに行ったり、子どものものは処分したり。それをして、一軒の家を処分することがこんなに大変なんだと、身にしみたのです。粗大ゴミ回収を22回頼みました。

 

それくらい、人はモノにまみれて生きているんだとわかったんです。で、本当にそれでいいのかなって、思ったんですね。だから私は、自分で把握できるものの中で暮らしていきたいな思いました。そうして、整理収納アドバイザーの資格を取りました。誰かに、「片づかないのよ~」と言われると、お手伝いに行きたくなってしまうんですね(笑)。いろんな方のお宅にうかがって見せていただいた結論は、「たくさんモノがある人は、エネルギーを取られている」ということです。

 

人は誰でも、幸せに生きたいと思うのです。そのためには、その人の持っている時間もモノもお金も、充分に生活に生かして役立てていくことかと。使いきれないほどのモノにふりまわされてしまうより、必要充分な量で生きる。そうすることで、軽やかに心豊かに、そして幸せに生きられるのかなと思っています。

 

 

生活の実際のことは数字で考えると、勇気が出る!

女性(70代): 私は70歳です。実家の母は98歳で、車椅子生活です。その母が80歳のときに、部屋を片づけたのですね。2階建てに1人暮らしだったので、2部屋を片づけました。すごく気持ちいいなと思いました。もう1部屋はまだ残っていますが、今はホームに入っています。ですので、私が80歳になったら片づけようかなと思っていましたが、お話をお聞きして、いろいろ考えるところがありました。主人の母は10年前、主人の父は15年前に亡くなりまして、義理の妹が少し片づけてくれましたが、まだ残ってるんですね。納戸になっている部屋は、子どものものが積み重なっているので、なるべく「だわへし」で、片づけ始めています。孫のモノも、数を決めて片づけているところです。この間、2つの食器戸棚を1つにしたら、粗大ゴミ料として4400円でした。やっぱり時間も体力も使うので、何歳になったら……ではなく、やっていきたいと思いました。今日は参考になりました。ありがとうございました。
井田: 申し上げたことは、1つの例として、参考にしてください。
生活はすべて、具体的なものの中で成り立っていると思います。日々のことはきれいごとではありませんから、そこを進めていくには、やっぱり、言葉と数字が必要ですよね。言葉は、『羽仁もと子著作集』によって導かれましたし、数字は、自分の生活の中でいろいろな調べものをしながら、少しずつ少しずつ、理想の数字を探ってきました。やはり、数字がないと、勇気が出ません。

 

「コンパクトな生活がしたい」「簡素な暮らしがしたい」とイメージしても、「じゃあ実際に何万円で生活したらいいの」とか「実際に何着持ちたいの」とか、そういうことはイメージではつかめないので、数字です。数字は、とても勇気をくれますし、大事な指標だと思っているので、今日は具体的な数なども申し上げましたが、それが正しいわけではなく、それぞれのお宅で、考えていただくのがいいのかなと思います。

 

 

それから、お子さんやお孫さんと話をするときには、数字を使われるといいと思います。「部屋を片づけなさいよ」では、子どもは動きませんから、たとえば「本棚のここを2段にしてみたら……」とか具体的なことを言うと、子どもはやりたくなるんですよね。高校生以上になったら、「スマホでビフォー・アフターの写真をお母さんに送って」と言うと、子どもが自分でしますよ。今の若い人たちは、写真がすごく好きですので、「今の状態をまず撮ってみて。1週間後にまた撮って送って」と言うと、意外と頑張るんですよね。例えば、本棚のコミックが入っているコーナーとか、洋服ダンスとか、狭いところから始めるのがコツです。狭い1つの枠の中を、子ども自身の手に任せてしてもらう。そして報告を受けたら、まずはしっかり褒めることです。余談ですが、料理も一緒です。私は、夫に最初に料理をつくってもらったときすごく褒めたので、今も続いていますよ。

 

 

気になっている場所を3日以内に取りかかる

井田:

人は褒められたり、勇気や元気をもらったりしたときが転機になりますから、今日はやはり、皆さんが大事な時間を使って来てくださっているので、少しでも元気になって決心を持って帰っていただければと思っています。そこで、いつも講演会の最後に申し上げるのは、「今、家の中で一番気になっているところはどこか、を思い描いてください。そして、3日以内に取りかかると決心してください」ということです。家の中で一番気になっているところ、1カ所でいいですよ。小さなところでかまいません。決心することが、その方を動かすんですね。

 

明日、本棚をやりますって頭の中で決めたら、明日になると必ず、うずうずするはずです。不思議ですが、自分で決心したことは、自分を動かしてくれるんですね。ですからぜひ、今日は、お土産として、お家の中で気になっている場所1カ所を、明日、明後日、明々後日のうちに手をつけようと、決心してください。3日間で完成しなくてもいいですよ。写真を撮るだけでもいい。事実と向き合うだけでもいいですよ。たとえば、玄関開けて、こんにちはって玄関を入って、よその家だと思ってパッと写真を撮るんです。そうすると、見慣れている風景と違うと思います。普段は、都合のいいところしか見ていないので、こんなところにいつまでも古いカレンダーがある、とか、子どもの作品が埃をかぶっているというようなことに、気がつかない。

 

ですからぜひ、気になっているところの写真を撮ってみてください。客観視すると、新しい発見もあると思います。そして、片づけはやって終わりではなく、日々、なんですよね。私は毎日、小さな模様替えを心がけています。昨日はこうだったけれど、やっぱりこっちの方がいいかなって、コップの並べ替えや、茶碗の置き場程度ですが。なぜなら、する場所が大きくなればなるほど、大変になるからです、大片づけになるからです。だから、問題の段差が小さいうちに、少しずつ動かして解決していく。そうしていると、“大きな不便”がなかなかやってこないのです。ですから、小さなうちにやっておくことが、その人をラクにしてくれると思いますので、ぜひ、80歳からとおっしゃらずに、今日からなさってみてください。今日帰って、ポストの中のチラシからですね、処分していただくとか、置き場所を決めるとか、していただけるといいと思います。

 

 

消耗品の在庫を持たないということですが、非常用はどうしていますか?

女性:

ラップやホイルは1本ずつで、在庫をお持ちにならない、とうかがってびっくりしたのですが……。私は、2年前に東京に越して来まして、地震のことなどを考えると、ラップとかホイルは、お皿を覆うのに便利ですなどと薦められているので、どうしても何本か備えてしまうのですが、井田さんは、非常用のものは、どんなふうに考えていらっしゃるのでしょうか。

井田:

キッチンの調理台の引き出しに入れて使っているものは、1本だけですね。防災上のものは、別の場所にあります。災害時に必要なものを、普段からよく使う引き出しに入れておく必要はありませんから。ラップやホイルは、1階の和室の押入れにある防災リュックに入れてあります。

 

防災用品についてお話しししますと、キッチンの床下にお水があります。それから、食料品については、ローリングストックといって、食べる日を決めて缶詰、乾パン、乾麺などをまわしています。東日本大震災のときは、3日間、どこにも買い物に行かず、冷凍庫と冷蔵庫のものを食べ尽くして過ごしました。乾物のストックは少ないのですが、調理済みのものが冷蔵庫と冷凍庫に入っています。ですから、買い物に行かなくても、冷凍庫のものを解凍して食べればなんとかなるという状態です。卓上コンロもあります。

 

あとは、『婦人之友』2013年9月号で紹介された、「0次のポーチ」と「1次の備え」と「2次のリュック」を用意しています。0次のポーチというのは、いつも持ち歩いているポーチ。その中に、非常用の飴やキャンディー、連絡先を書いたカード。冬ならアルミのシートなど、一晩電車が止まってもいいような、最低限のものが入っているのが0次のポーチ。

 

1次の備えは、震災が起きて3日間、家で暮らせるだけのものを置いておく。先ほどお話ししたように押入れの中にあります。2次のリュックは、被災地になってしまったときにですね、避難場所に行くときのリュックですね。その中に、先ほどのラップも紙皿もありますし、すぐに使えるような状態で、全部揃えています。

 

防災食については、3.11と、9.11の日に食べています。開封してパッと食べられるパンや、宇宙食などです。そうして日にちを決めると、期限切れになりません。そして食べてみると、自分に合わなかったりということもあるので、年に2回は、いろいろ試して買ってみると、自分に合うものをストックすることができます。

 

 

私とは違い、モノをたくさん置いておきたい夫。どうしたらいいですか。

女性:

私は、モノを整理してシンプルに暮らしたいタイプなんですけれども、夫は逆で、目に見えるところにたくさんのモノがあるのがとても好きで、紙なども捨てられないんですね。どうやって家庭内で平安にやっていけばいいのか、アドバイスをお願いします。

井田:

はい、よくあるお悩みです。夫か子どもが、ご自身とはタイプが違うという場合は、よくあります。まずは、問題の場所が家族共通のエリアかどうかですよね。たとえば、ご主人がとっておきたい紙や本が、ご主人の部屋なら、そのままでいいと思います。

けれど、みんなで使う食卓周りやリビングに、ご主人のものがずっと置いてあるなら、みんなも困ると思うので、ご主人のゾーンと言いますか、ある程度の枠を設けて、この枠の中なら自由にしてもいいよというのを、決めるといいと思います。

 

うちの場合は、本棚の中に夫の場所を決めていて、はみ出したら自分でブックオフなどに持って行きます。枠があると、その人も考えるんですね。ですから、ここの範囲とわかっていると、ご主人もきっとご自分なりに考えると思います。もし、専用の部屋がなくても、ゾーンを決めることはできるのではないでしょうか。

 

さらに言うと、本棚や書類は、部屋入った正面に置かない方がスッキリします。部屋に入った正面は、壁や白い部分を出して、雑多になりがちな棚は、部屋の側面や背面に置くと、部屋に入ったときの印象がずいぶん違いますし、ストレスも変わると思いますよ。

 


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